ずっと前から読みたかった図書館予約本【リカバリーカバヒコ】。
3ヶ月待ってようやく手元に届きました。どのお話も自分のこと?と思えるような温かいなんとも言えない気持ちが分かります。
待った甲斐がありました。
【リカバリーカバヒコ】のあらすじ
5階建ての新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。
近くの日の出公園には古くから設置されているカバのアニマルライドがあり、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がある。人呼んで“リカバリー・カバヒコ”。
アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。
誰もが抱く小さな痛みにやさしく寄り添う、青山ワールドの真骨頂。
【リカバリーカバヒコ】作者:青山美智子 (あおやま・みちこ)
1970年生まれ。愛知県出身、横浜在住。
大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務の後、出版社で雑誌編集者をしながら執筆活動に入る。
2017年『木曜日にはココアを』で小説家デビュー。同作は第1回未来屋小説大賞入賞、第1回宮崎本大賞受賞。’21年『猫のお告げは樹の下で』で第13回天竜文学賞を受賞。同年『お探し物は図書室まで』が本屋大賞第2位。同作は、アメリカの『TIME』が発表する「2023年の必読書100冊」に日本で唯一選出された。’22年『赤と青とエスキース』が本屋大賞第2位。’23年『月の立つ林で』が本屋大賞第5位。
【リカバリーカバヒコ】の登場人物
第1話 奏斗の頭
急な成績不振に悩む高校生。
宮原奏斗(みやはらかなと)
高校1年生
雫田美冬(しずくだみふゆ)
奏斗の同級生
兄弟姉妹6人で高校にかかるお金はできるだけ自分で稼ぐため、アルバイトをしている。
母親はスーパー「アサヒストア」でレジをしている。
第2話 紗羽の口
ママ友たちに馴染めない元アパレル店員。
樋村紗羽(ひむらさわ)
元アパレル店員
清潔感のあるカジュアルな恰好が似合う。
娘みずほの卒園まで後半年でアドヴァンス・ヒルに引っ越してくる
ママ友の間で仲間外れにされないように、相手に合わせて感じよく控えめにしている。
樋村みずほ(ひむらみずほ)
ひばり幼稚園に通っている。
樋村佳孝(ひむらよしたか)
紗羽の夫
西本明美(にしもとあけみ)
ママ友 40代半ば
明美さん
ママ友でリーダー的な存在
娘杏梨ちゃんの上に小学6年生のお兄ちゃんがいて、ママキャリアは長い
前島文江(まえじまふみえ)
ママ友 35歳
文江ちゃん
朝、バスに乗った子供たちを見送ったあと、お迎え時間までファーストフード店「サマンサ」でおしゃべりして過ごすことが多い。
行村果保(ゆきむらかほ)
ママ友 37歳
果保ちゃん
文江ちゃん同様、お迎え時間までサマンサでおしゃべりして過ごす。
絹川(きぬがわ)さん
細身で、いつも背筋がしゅっとしていて無口。
挨拶はするが、余計な事を話さずこどもを見送った後はすぐに去っていく。
息子は友樹(ともき)くん。
第3話 ちはるの耳
ストレスからの不調で求職中の女性。
新沢ちはる(にいざわちはる)
両親と同居。両親は共に教師。
26歳。大学卒業後ウエディングプランナーとして入社。
じっくりとお客様と向き合いながら決定していくタイプ。
ストレスで耳管開放症になり求職中。
棚村紗羽にカバヒコの伝説について教えて貰う。
澄江(すみえ)
大きな瞳によくとおる高い声。25歳
専門学校を出てウエディングプランナーとなる。
スピーディーに決定事項を決めていく。成約率は高い。
島谷洋治(しまたにようじ)
ちはるの同期
第4話 勇哉の足
駅伝が嫌でケガをしたと嘘をついた小学生。
勇哉(ゆうや)
小学4年生。運動が苦手。
駅伝大会に出るのが嫌で足を怪我したと嘘をついてしまう。
クリーニングを取りに行く際、カバヒコの伝説をきく。
スグルくん
小学4年生。
運動神経は良くないが、くじ引きで当たって駅伝大会の参加が決定する。
第5話 和彦の目
母との関係がこじれたままの雑誌編集長。
溝端和彦(みぞばたかずひこ)
栄星社に勤務して30年。編集長。
溝端美弥子(みぞばたみやこ)
和彦の妻
高岡(たかおか)
30歳。栄星社の編集部員。
和彦の母
サンライズ・クリーニングの店主
【リカバリーカバヒコ】の好きなセリフとネタバレ感想
第1話 奏斗の頭
中学卒業を機に引越が決まっていて、担任にみんなと離れるのはさびしいなと言われる奏斗。
適当に仲良くしてるふうなクラスメイトはいたけど、心を開けるような友達は僕にはいなかったように思う。
同じクラスの雫田さんと公園で出会った奏斗。
雫田さんが言うには、アニマルライドのカバには、ある都市伝説があるという。
「カバヒコってね、すごいんだよ。ケガとか病気とか、自分の体の治したい部分と同じところを触ると回復するって言われてるの」
雫田さんと話すようになった奏斗。そんな雫田さんは、奏斗にこういう。
「ランキング出すのって、残酷な話だよねぇ。クラスの42年で一斉に同じ事したら誰かは42番なわけだよね。毎回絶対にいるんだよ。消せないんだ。その席は」
バカと落書きされたアニマルライドのカバヒコの落書きを消そうとする奏斗。
「・・・上から何か塗ったって、その下にバカがあると思うとちょっとせつないな」
僕はそういって、ラッカーを下げた。
消すのと、隠すのは違うのだ。そうやってごまかしても、なかったことになんてならないのだ。
自分のことを相手に伝えるのは簡単なようで難しい。
雫田さんはが苦手な地理でクラス2位
苦手だって言ってたのにとつっかかるような口調で彼女に怒りをぶつける奏斗。
「誰かに勝ちたかったんじゃなくて、私が、がんばりたかったんだ」
観葉植物が好きな父に観葉植物に直接褒めたりしないのか尋ねる奏斗。
父さんはいつも優しい。でも、褒めてくれることはほとんどない。それがずっと、不思議で不安だった。本当の本当は冷たい人なのかもしれない。
「植物に言葉なんか分かるわけないって疑ってるわけじゃなくて、逆なんだ。本当に通じると思うんだよね。だから、言葉には責任がある。」
「褒められたくてがんばるって、それも悪いことじゃないんだけどな。それだけを目標にしてると、褒められなかった時にくじけちゃうだろ」
ただ褒めてもらえなかったって、それだけのことなのに。誰が何を言ったって、何もいわなくたって、懸命に咲こうとしているその姿には、なんの変わりもないのにさ
だから父さんは、ただ愛するんだ。それだけ
ただ愛す。
それだけなのに、成長とともにお互いそれが上手く表現できなくなってしまうことがある。
結果というよりもね、母さんは奏斗がそんなふうにがんばってることが嬉しいのよ
なんで勘違いするんだろう
子どもは母親の笑顔がみたいから頑張る
父親の笑顔がみたいから。
親だって分かっているハズなのについ、点数や結果で決めてしまいがち。
どちらも勘違いしてしまう。勝ち負けじゃないのに。
お互いにただ愛したい、愛して欲しい。それだけなのに。
第2話 紗羽の口
子ども達を見送った後のサマンサにておしゃべりタイムや幼稚園のバザー開催にあたっての係を強引に誘われたりすることをはっきりと断れないでいる紗羽。
サマンサにて話している内容は輪に入ってこない人についての憶測やその子供についての印象など。
「仕事してるからって、えらいのかしらねぇ」
明美さんが眉をひそめてそう言い、私の心の奥で、何かがきしんだ音をたてた。
ここでも自分の気持ちを相手に伝えることなく相づちだけをうち、誰のことも否定しないように何もしらないふりをする紗羽。
妊娠するまではアパレルの店員だった紗羽は接客の仕事が好きで人と触れ合う事が好きだったのに、ママ友たちとの会話がしんどそう。
みずほが店員ごっこをしているように、私も今「ママ友ごっこ」をしているのかもしれない。誰のことも友達なんて思っていないくせに。
新築マンションアドヴァンス・ヒルに引っ越してからなんとなく疲れが取れない紗羽。
そんな紗羽に対して実家の母親は、マンションを買った夫に対して感謝するべきなどと言ってくる。マンションは「買ってもらった」のか「ありがとう」というべきなのか。
母は優しい人だけれど、想像力に欠ける。私の複雑な心境を理解してもらうのは、少しばかり難しかった。
相手が母親であっても娘であっても、その人の気持ちは分かり合えません。
いつも自分と一緒にいてても、自分の事すらなかなか分からないのですから。
それなのに、母親の価値観で物を言ったり強制されたりしたことは誰もがあるのではないでしょうか。
それでも相手の事を想って自分の気持ちを押し殺してしてきた事もあるのだと思います。
以前アパレルの仕事で賞をもらった時の画像を見つけられ、称賛のラインが送られてくる。ママ友たちの腹のうちがこわくて、どう返せばいいか分からず、大したことないと送ってしまう紗羽。
そんな時、ママ友たちとサマンサに行こうと誘われて…
「ラインで言ってたじゃん。あの記事をみんなが褒めたら、たいしたことじゃないって。紗羽ちゃんにとってはそんなんだろうね。うらやましいよ。前から紗羽ちゃんって、私たちの話にもかなりてきとうっていうか、聞き流してるところあったよね」
こういう時って一番初めに思いつくのが子供。
もうこの場を立ち去りたかった。
でもここで私が逃げたりしたら、今度はみずほに影響があるんじないか。
明美さんが杏梨ちゃんに何を吹き込むかわからない。もう遊んじゃいけないとか、みずほちゃんはいじわるな子だとか。
みずほを守らなくてはいけない。なんとか気持ちを抑えて、場を繕わなくては。
だけど、守るってどういうことだろう?
ママ友問題は色々ありそうです。
自分がよくても子供を人質にとられてしまっているみたいで。
そんな時に雫田さんからカバヒコの伝説を教えてもらう紗羽。
バザーでの取り決めで、売れ残った品物をどうするかということについて、リーダー的存在明美さんが、こう言う。
「売り場の担当さんには責任を持って売って頂くってことで、売れ残ったものはその担当さんの買い取りでいいんじゃないかしら」
明美さんはゲームコーナーの担当になっている。売れ残りがでない「売り場」だ。
反対の意見が出ない事に加えて時間の関係で強制的に終わらせようとする明美さんに意見を言ったのは絹川さん。
淀みのない口調で、ハッキリと売れ残りの責任を自腹で取る必要はないという絹川さんにその場に居合わせたママさんたちは、安心されたのではないかと思います。
この世界は「ごっこ」なんかじゃない。私は誰にも代わることのできないみずほの母親として、たったひとりの「樋村紗羽」としてこのリアルを生きているのだ。
その一件から絹川さんと親しくなる紗羽。
そして、ママ友との関係をリカバリーし、ごまかしのない自分でいられるようにやるべきことをやりたいことを、自分のペースでしっかりとやっていくのでした。
第3話 ちはるの耳
私が我慢すればいいだけ。それだけだ。
自分の気持ちを押し殺してばかりいると、いつか必ず壊れてしまいます。
ガマンしないこと。誰かに気持ちを伝えること。ペットでもいい。何でもいい、ストレスは吐き出さないといけないと思います。自分のストレスの発散方法を知っておくこと。これが大切だと思います。
不安。そうだ、私はいつも、不安なのだ。
人にどう思われているか。自分の仕事がちゃんとできているのか。
不安なのは、誰もが同じなんだということ。それでもなるようにしかならない。
それなら今目の前にあることをしっかりとする。たったこれだけですが、それだけで不安な気持ちは払拭できる。そう思っています。
「不安っていうのも立派な想像力だと、あたしは思うね」
「不安っていうのは、まだ起きていないこととか、他人に対して抱くものだろ。それを想い描けるっていうのは、想像力がある証拠」
想像力とは、良い事に使うことだと思っていたちはる。
それに対してクリーニングの店主のお婆さんは、
「もちろん。心遣いも思いやりも、すべて想像力だからね。不安がりなあなたは、きっと優しいひとだと思うよ」
「先のことじゃなくて、誰かのことじゃなくて、今の自分の気持ちだけをみつけてごらんよ。」
とてつもなく立派な想像力。
ちはると同じように私もとてつもない想像力豊かなんだと思います。
だとしたら、それを使って思いやりや優しさをふくらませていこう。
相手のことも、自分のことも、もう少しだけまっすぐ愛していけるように。
第4話 勇哉の足
駅伝大会に出るのが嫌で思わずついた足のけがのウソ。
だけど、本当に足が痛くなって…
病院で診てもらうも異常なしでちはるさんに教えてもらった整体に行く事に。
そしたら整体の先生が、宿題を出してくれた。
1つ目は身体のバランスを整える体操を2つすること。
もう1つは、「足から意識を飛ばす練習」
「痛いとか治らないんじゃないとか、足に意識が持っていかれているとまた頭が間違えちゃうからね。不安な気持ちには、立ち向かうより、そらすってことも大事なんだ」
考えるとと悪い方へと考えてしまうものです。
つい余計な事を考えてしまう。
だからなかなか抜けなせないでいる。
「できれば何か楽しいことに意識を移動させられるといいね。でもそれが難しかったらまずは目の前のことだけ、集中して考えることからやってみてごらん」
毎日なんでもなくやっていること。ご飯を食べるとか、歯を磨くとか、とにかく、そのときそのときの目の前のこと。
目の前の事に集中するって出来そうでやらない。
勇哉くんは自分が本当に嫌だったことは、みんなにカッコ悪いところを見られるのが嫌だったから。見ている人たちから笑われ、駅伝当日じゃなくこれからの学校生活が絶望になるのを避けるため。
スグルくんは、そんなこと気にしなくて人がどう言おうがやるからには全力で取り組もうとしていました。
全力で目の前のことに集中するのはやっぱりカッコいい。
第5話 和彦の目
「それでいいんじゃないんですか。何が大事で必要か、そのつど選択しながら生きているってことでしょ。なにもかも全部ハッキリみてやろうなんて、そのほうが傲慢ですよ」
人間というものは、見たい物だけ見たいようにみえているもの。
身近な人にはつい強がったりするもの。
言いたい気持ちを言えなくなってしまうもの。
クリーニングのおばあちゃん
最後のクリーニングのおあばあちゃんにもやっぱり失敗や悩みがあるんだと思いました。登場人物たちのように素直になれないのは誰もが同じなのかもしれません。
和彦の奥さんのようなお客さんとしての姿もカッコ良いなぁと思いました。
どれだけの距離があるのか分かりませんが、わざわざ遠くへクリーニングを出しにはいけないものです。
人は知らない所で誰かに助けてもらっている。
毎日を感謝しながら生活していこうと思いました。
リカバリー・カバヒコを通して人とのやさしさに触れ、少しの勇気を貰い、前に進んでいく主人公たち。
心温まる良い本でした。