新学期が始まる季節はドキドキですよね。
ワクワクもあるけれど、心配の方がずっと大きい。
担任の先生がどんな先生に当たるとか、仲良しの子と同じクラスになれるかとか。
特に修学旅行がある学年は、男女問わずとても大切なクラス替えでもあります。
今回読んだ【蹴りたい背中】の主人公は、高校に入学してから2か月経っても新しいクラスになじめません。
理科室で独りつまらなさそうに、覚めた目でクラス全体を見ている主人公の心の内を描いている所から物語は始まります。
あらすじ
高校に入ったばかりの“にな川”と“ハツ”はクラスの余り者同士。臆病ゆえに孤独な2人の関係のゆくえは……。世代を超えて多くの読者の共感をよんだ第130回芥川賞受賞作。
作者
綿矢 りさ (ワタヤ リサ)
1984年生まれ。2001年『インストール』で文藝賞を受賞しデビュー。04年『蹴りたい背中』で史上最年少で芥川賞受賞。著書に『かわいそうだね?』(大江賞)、『生のみ生のままで』(島清恋愛文学賞)など。
【蹴りたい背中】の感想
思っていたよりも短くて一気に読めました。
主人公のハツは、高校1年生。
入学式から2か月経った6月になっても未だ友達はいません。
理科室で先生が言った「適当に座って5人で班をつくれ」
「適当に」←簡単に言うけれど、これって友達がいない子だったり、6人の偶数メンバーだったり人数的に離れ離れになりにくい時ってややこしいんですよね。
誰が離れるか?みたいな感じで。
そんな時始まる「誰が行くか」の探り合い。
笑顔だけど、顔は引きつっている緊張感。
空気が読める優しい子は、「私が行く」ってサッと席を譲ったりしてくれるので、その場は平和に収まりますが‥
譲ってくれた子はどこかで(私が我慢すれば)って自分を抑えているかもしれないし、(あの子がいけば良かったのに)って思われているかもしれないし、微妙な空気感だったりするんですよね。
せっかく必死に作り上げた?(かもしれない)出来て間もない仲良しグループから、ほんの少しの時間でも引き離されるのは、誰だって嫌ですよね。
仲いい(?)メンバーから離れるのって。
なんだそんなことで。って思われるかもしれませんが、これって特にまだ出来立てのグループにとっては、大切な事なんじゃないのかなあ~なんて思います。
先生は何にも思っていないのかもしれませんが、ここは誰となっても文句がでない「出席番号順」とか「くじで決める」とかして欲しいよねぇ~と思いました。
そんなクラスの「余りもの」となった主人公が持て余る時間でクラスを観察し、クラスの交友関係を相関図にして書けるかも?という所がとても興味深かったです。(実際には書いていませんが)
クラスの相関図。
考えた事なかったなぁ。
実際に考えたらちょっと怖い気がします。
主人公のハツは結構観察力があるから、表面上だけではなく、クラスの子達のしぐさや態度をじっくり見ていて、彼らが無理をしているのか本当に会話を楽しんでいるのかどうか?でサクサクと相関図を書いていきそうで怖い。
職場でも表面上ではとても仲良く見えるのに、実際は違うかったって事今までにありましたし、信じていて裏切られたって事も聞いたりしました。
大人になっても人間不信になる騙し合いみたいな付き合いもあるのだから、小さな学校の世界ならなおさらなのかもしれません。
中学生や高校生の時の同じグループの中でも沈黙がとてつもなく怖かったり、何か話さないとって必死になったり、話さなかったらそれはそれで、つまらない子って思われないかとか。思春期の子達にとってやる事なす事全てが重要になってくるのかもしれません。
居場所がない教室。
中でも1人でいるお弁当の時間はとてつもなく長く感じる主人公。
主人公のハツには中学からの友人絹代がいるのですが、絹代は他のグループとの交友を優先してしまいます。
そのため、ハツは毎日1人でお弁当を食べる事になるのですが、「1人で孤独を選ぶ」のと「誰もいないから1人で食べる」とは全く違うんですよね。
それでもいかに自分から「孤独を選んだ」というふうに見せかけるために、窓の外を見ながら、お弁当を食べる習慣になりそうな時に、クラスの男子から「クーラーの解禁だから窓を開けて食べるのを辞めてくれる」と上から目線で言われてしまいます。
これからまた自分の机で食べるお弁当。
人の目線を気にしながら食べる独りお弁当。
想像しながら読むと、(自分だったら)とか(自分の子供だったら)と色々考えてしまいます。
誰だって、自分が一緒にいて心地よい友人と一緒に楽しいお弁当時間にしたいですよね。
こういう本を読むと、親の私も(楽しく過ごせてるかな)と子供が毎日楽しく学校生活を送っているのかと心配になります。
私は友達が多い方ではありませんでしたが、気の合う友人と一緒にご飯を食べて楽しく過ごすことが出来ましたが、友達が休みだったりするとなんだかその1日がとても長く感じた様な記憶があります。
作者はそんな主人公の心の奥の気持ちをとても想像しやすい表現で書いていたので、読みやすかったです。
また主人公と同様、男子の余りものとなった「にな川」とふとしたことがきっかけで、主人公ハツと話すようになります。
一緒にいてるとハツが「にな川」を蹴りたい気持ちにかられるのですが、ここは読者がどう捉えるか「にな川」に対する主人公の何故蹴りたくなるのかは人それぞれなのかもしれません。
最後にハツの気持ちこれって分かる気がします。
私は、見ているようで見ていないのだ。
自分の内側ばっかり見ているから、何も覚えていない。学校にいる間は、頭の中でずっと一人でしゃべっているから、外の世界が遠いんだ。
高校卒業から何十年も経った今、大人になって色んな思いがあって読んだ本になりました。
高校生は若いなぁ。若いってやっぱりいいなぁ~と思ってしまいました。