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【本日も教官なり】小野寺史宜 誰かにアドバイスをする際のルール

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別居中の娘が17歳で妊娠したと元妻からの電話。

ロック好き・45歳・益子豊士、人生最大のS字・クランクに差しかかる!?

 

【本日も教官なり】あらすじ

豊士の教習車には今日もさまざまな人が乗り込む。カレシに飲酒運転をさせまいと教習所に通う佳世。就職先で免許が必要な大学四年の七八。孫娘の幼稚園送迎のため69歳で免許取得を目指すしの。彼ら教習生に対し紳士的に接することを心掛ける豊士。だが、それどころではなかった。17歳の娘が妊娠したというのだ。若い男女の教習生は、ついつい娘とその相手に見えてしまう。加えて現カノジョ・万由とは徐々に疎遠に。元妻・美鈴との再会がそれを加速させる!?どうなる、ロック中年・豊士!!

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【本日も教官なり】作者:小野寺 史宜(おのでらふみのり)

1968年、千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」で第86回オール讀物新人賞を受賞。08年、第3回ポプラ社小説大賞優秀賞受賞作の『ROCKER』で単行本デビュー。他の著書に『ひりつく夜の音』『リカバリー』『ひと』『それ自体が奇跡』『本日も教官なり』『太郎とさくら』『夜の側に立つ』『ライフ』『縁』『まち』「みつばの郵便屋さん」シリーズなど。

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【本日も教官なり】登場人物

益子豊士(ますことよし)

45歳。

自動車教習所教官。

仕事が休日の前夜には必ず「ソーアン」で飲む。

 

岡美鈴(おかみすず)

豊士の元妻。アパレルメーカー

美月(みつき)

豊士の娘。17歳で妊娠。

7月17日が誕生日。

万由(まゆ)

豊士の彼女。44歳。繊維メーカー

大阪本社に異動になり、遠距離恋愛

 

深谷陸(ふかやりく)

高校2年生。美月の子どもの父親

犬飼悦人(いぬかいえつと)

中高の友だち。

父親がビートルズ好きでポピュラー音楽への理解があり、自宅には何百枚ものレコードやオーディオなどがあった。

現在は2人の子の父親。

温泉が好きでもうロックは聴かない。

 

近藤所長(こんどうしょちょう)

豊士が務める教習所の所長。強面だが優しい。53歳。

小西陽南子(こにしひなこ)

四葉教習所の事務員。話しやすく教習生たちからも人気がある。

津村良太(つむらりょうた)

若くて兄貴分の所があるが、言うべきことをはっきり言う。

林田佳世(はやしだかよ)

35歳。カレシに飲酒運転をさせまいと教習所に通う。

麻生七八(あそうななや)

就職先で免許が必要な大学生。22歳。

臼井しの(うすいしの)

69歳。孫娘の幼稚園送迎のため免許取得を目指す。

 

吉野草安(よしのそうあん)

ソーアンのマスター。55歳。

オーナーは別れた奥さん。

子供は維安(いあん)君。叙安(じょあん)ちゃん。

2人共にプロのミュージシャンでギタリストとドラマー。

森田冬香(もりたふゆか)

38歳。ソーアンのアルバイト

シングルマザー。髪の色は茶色。顔は白い。

3年前の誕生日に実年齢をカミングアウト。20歳の息子がいる。

森田幹矢(もりたみきや)

森田冬香の息子。

 

【本日も教官なり】セリフとネタバレ感想

そう思った瞬間、ぶわっときた。鼻の奥がツンとなり、涙が出そうになった。

ツンと涙がほぼ同時。初めてだ、そんなの。

11年目にみる娘の姿を見て豊士が感じたこと。

鼻の奥がツンとなる感じ。わかる。こうやって表現するんだな。

特にこの時期の子供の成長は大きい。

 

63ページから豊士が離婚した理由が書かれている。正直こんな人の良さそうな人がなんで離婚をと思っていたのですが、理由が(それだけで)と思ってしまいました。この「だけ」が結構大変で、そういうことの積み重ねが大事に繋がってしまうんだろうなと今では思います。

 

美月を妊娠させた高校生の親と3対3の6名で話し合いの場面。

それが美月さんのためでもあると思います。

 

息子を持つ父親が言うセリフ。

聞きたくなかった言葉が出た。(中略)美月のため。

 

こちらは娘を持つ父親の気持ち。

これは陸だけの責任ですか?

 

今度は息子を持つ母親のセリフ。

美月に産む意志がある以上、産みます。産ませます。

 

娘を持つ母親のセリフ。

 

息子・娘、男親、女親でも思うことは違ってくるので、お互いの気持ちを考えながら読みました。

謝罪か謝罪っぽい言葉か。

費用=中絶手術にかかる費用。そのほかにいくらか=慰謝料

 

私には息子と娘はいますが、一番は本人の気持ち。

そしてその後のフォロー。

お互いに責任があると言われてもやはり産む側にかなり負担が押し寄せられるなぁと思います。

84ページから11年間娘に会えなかった父親の気持ち。いちいち娘の行動に反応して自分でツッコむところが可愛い。

 

冬香ちゃんの第一声は、ちょっと意外なものだ。妊娠がどうこうではない。

 

精神的に疲れている時、親しくしている第三者の言葉はありがたいと思います。

私も最初は(中絶なのか)と一瞬揺らいだのですが、冬香ちゃんの言葉は前向きの答えだった。

どうにかなる。ポンっと背中を押された気持ちになります。

 

「いられないんじゃないですか?ほかの生徒の親もガンガン言ってきそうだし。そんな子と同じクラスにしないでくれとか」

そんな子。何でもない言葉なのに、グサリとくる。

 

悪気はなくても、サラリと出てしまう何でもない言葉。

豊士がそれとなく教習生との会話で娘と同年代の子の気持ちを探る場面で出た言葉。

だが訊けたら訊けたで、ちょっとツラい。産むなら学校をやめざるを得ないという認識がやはり一般的だと、わかってしまったから。

 

当人たちの前ではキレイごとを言っても、世間が思う考え方、感じ方はこうなんだ。と思い知らされるのでした。

現実は厳しいんですよね。何もかもが。

もしや妊娠?と思ったとき、美月は母親の美鈴よりも先に養護教論の大倉に相談したらしい。親よりは教師に、ということではなく、身内よりは他人に。

これはそうだろうな。と思います。

心配かけさせたくないという気持ちやらがあってなかなか言いにくいと思います。

出来ることならという藁にも縋る思いってところがあるんだと思います。

子どものため。うまいこと言うもんだ。まちがってはいない。いや、まちがってないどころじゃなく、正しい。何というか、もう、絶対的に正しい。だがその絶対的な正しさを立てにつかわれると、腹立たしい。(中略)やはり響かなかった。本音ではないことがこちらに伝わってきたからだ。

正論を言われると立つ瀬がないんですよね。

どことなく追い詰められているような気もしますし。

 

それが先生であったり親であったりすると余計に。

「一般的にはこうだろうから、あなたもそうしなさいよ。」って言われてるみたいで、余計にみじめっていうか、悲しいっていうか何にも分かっていないんだな。この人は。みたいになってしまう。

立場が弱いともうなんにも言えなくなってしまいます。

そしてそれが当たり前みたいになっているんですよね。

今さらながら、自分が初めて美月の体に手を触れたことに気づく。肩に手を当ててるだけ。だが触れてはいる。拒まれない。

 

支えるってこういうことなんだなぁ。

落ち込んでいる時に背中をなでられたり、側にいてくれたり。

それだけでいい。言葉もいらない。

誰かにアドバイスをする際のルール

①本人に請われたのでない限りアドバイスはしないこと。

②どうしろと言うんじゃなく、自分ならどうするかを話すこと。

 

ここは今まで勘違いしている所がたくさんありました。

アドバイスはするものだと思っていた。

またアドバイスはされるものだと思っていたのかもしれません。

そう考えていた時は自分で決められなかったということ。

これは自分の意思で決めなかったのか、親や周りに言われるがままそうせざるを得なかったのかで微妙に違います。

「大人ってのはさ、バカなんだよ。どうでもいい肩書に見事に振り回されたりする。中卒よりは高卒をエラいと思ったりする。バカなのを自分で分かってたりもする。でもほぼ全員がそうだから、世の中がもう、そういう仕組みになっている。それは変えられないんだ。」

あぁ、そうなんですよね。

そうなっちゃってるから。豊士さん、良いお父さんだ。

高校を辞めるという美月に、後悔してないか尋ねる豊士。

「してもいい」美月が全てを受け入れたうえで答える所がしっかりしてるなと思う私。

 

今の美月と同じ17歳のときのおれ。まちがいなく、アホだった。

といっても、危険なアホじゃない。女子を妊娠させたりする心配は無用とある種健全なアホだ。

 

娘と同じ17歳の当時を振り返る豊士。

ロックをこよなく愛す高校生。

振り返れば私もそうだったなぁ。

ビートルズをこよなく愛す高校生。

 

ここ最近小野寺史宜さんの本を読んでいて思うのは、どの主人公も考えが似ているから共感できる部分が多いから心地よいのだ。

負けんな、美月。

負けるな、美月ちゃん。そう言いたい。

「クドい」

 

美月が豊士に言う。

親にとっては子どもはいつまでも小さい子どものままで止まっちゃうんですかね。

クドいって分かってても何度も言ってしまいます。

情報は無関係なやつらにも伝わる。拡散する。

 

悪い情報ほど、拡散されるのではと思います。

あることないこと書かれると余計に感情が先走ってしまいそうになります。

受け入れろよ、と言うのは簡単だ。他人事なら。

実際にそれができるかどうかは、その事実を知った瞬間に決まるような気がする。聞いた瞬間、どう感じたか。受け入れられたのか。られなかったのか。られなければ、その後あれこれ理屈をつけて修正するのは無理だろう。

 

受け入れるって難しい。

当人の場合。

けれども時間がかかっても受け入れること。これが大切だと思います。

向き合う。そうすることで、光が見えてくるから。

車に乗れたら楽しくない?

 

彼氏と別れた林田佳世さんに言う豊士の言葉。あったかい人だな。

「美月さん自身が決断されたのなら、それを尊重するしかありません」

 

校長先生の言葉。

豊士が思うように校長は(よかった、1つ片付いた)そう思っているのだろう。

なんかやだなぁ~と思うけれど、はっきりと想像できてしまいました。

「クラスの子達も最後にもう一度美月さんに会えなくて残念がってました」

 

担任がいった後に言った豊士の言葉が娘の父親としての立場なら言ってスッキリしたと思います。

校長、担任、男親等、これはそれぞれの立場から書かれると気持ちが変わってくるのでしょうが、今回は娘の父親の立場としてだと、心情は理解出来ます。

「陸と話したい」

 

娘の父親として、1人相手の男の子の気持ちを確かめようとする豊士。

(あ~娘思いの父親だな)そう思いました。

嫌がられても、娘をこれ以上傷つけさせたくない想いとこれでおしまい。という気持ち。その後陸の父親からの電話。

区切りとして会ったこと。

豊士と同様、娘を持つ親としての気持ちとしては気分が良かった。

何を考えても、結局は美月に行きついてしまう。だいじょうぶかな、美月。歩いてるかな、美月。電話にでてくれないかな、美月。

 

子どもを想う豊士の気持ちが伝わってきます、親心だなぁ。

「このまま益子さんが電話をかけてこなくなったら、あぁそんなもんなんだって、美月ちゃんは思っちゃうんじゃないかな」

 

娘が嫌うような行動をとってしまってから、せっかく電話が出来たのにとってもらえなくなった豊士。そんな豊士に冬香ちゃんの言葉は響く。

人が自分のためにそんなふうに動いてくれたらうれしい

落ち込んでいる時に、そういわれると嬉しい。

冬香ちゃん、え~な~。やっぱり居場所って大切だ。

「こないだはすまなかった。君の話を聞きもしないで、一方的に。いやな思いをさせてほんとに悪かった。申し訳ない。ごめんなさい」

 

豊士の勘違いで、美月の友人「岳(がく)」に嫌な想いをさせてしまい、彼を前にして頭を下げて謝る豊士。

これは私も思いました。そうしたいなぁっていう豊士がかっこよかった。

相手が誰であろう、謝ることは大切だ。

そして岳という優しい友人を持つ美月も幸せだなと思った。

「陸くんと会った」

 

そういう豊士に「何してんのよ」とあきれる美月。

正直に伝える豊士と、陸の気持ちを知っていて全てを受け入れている美月は強いなと思います。

「公春はね、知ってたの。口止めされてたみたい。それでまたあれこれ言われるのがいやだったんだね。どんな具合なのとか、まだ結果は出ないのとか。実際私なら言っちゃいそうだし」

 

69歳で免許を取ろうとするしのさんの、免許取得動機を話す際にしのさんが言った言葉。あれこれ聞かれるとうっとうしいですよね。

だから何も言わなくなる。

あるあるだと思います。

「時間が経っちゃったからかもしれないけれど、気持ちがこもってないみたいになるっていうか」

 

昔のことを誰かに謝ろうとすると、気持ちがこもってないみたいになるのはなぜだろう。ライブ感が出ないからか、ちゃんと謝れていない気がするみたい。

そんな時でも、本気で謝れば伝わる気がします。

「人はいろいろなものを好きになる。きらいだったものを好きになったりもする。その逆もある。好きだったものを、きらいになったりもする。」

 

それでも確かな事があります。

それは、父親が娘をきらいになる事はない。きらわれることはあっても、きらいになることはない。

 

父親に限りません。

母親だって同じ。

「人はやはり離れるべきじゃない。時間的にも、空間的にも。離れてしまうと大変だ。11年も美鈴や美月と離れてたおれには、それが痛いほどよくわかる。」

 

大人になるまでの11年は貴重な時間。

私も子ども達が小さかったころ、(早く大きくなってほしい)そう思っていたのに、今は、もっとあれもこれもしとけば良かったなんてことが沢山あります。

「困ったことがあったら言えよ」

 

豊士さんならどんなことがあっても娘を守るんだろうと思いました。

11年という歳月は長いですが、今から取り戻してほしいと思いました。

「もう来んな」

 

娘に、腹が立つくらい汚い言葉で気持ちをぶつけられるという事は、言われた側は気持ちが良いものではないけれど、子供にそう言える相手がいるということを喜ぶといい。

そうすることで、ストレス発散しているから。

豊士と美鈴。

長い年月が経ってしまったけれど…

お互いにお付き合いしていた相手と別れた事でまた良い関係になって欲しいと思いました。

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