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【ひと】あらすじとネタバレ感想 小野寺史宜 祥伝社

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【いえ】【まち】を読んで【ひと】も読んでみたいと思いました。

2019年に本屋大賞第2位にもなった本です。

 

今回は【ひと】のあらすじとネタバレ感想です。

【ひと】のあらすじ

母の故郷の鳥取で店を開くも失敗、
交通事故死した調理師だった父。
女手ひとつ、学食で働きながら一人っ子の僕を
東京の私大に進ませてくれた母。
──その母が急死した。

柏木聖輔かしわぎせいすけは二十歳の秋、たった一人になった。
全財産は百五十万円、奨学金を返せる自信はなく、
大学は中退。
仕事を探さなければと思いつつ、動き出せない日々が続いた。

そんなある日の午後、空腹に負けて吸い寄せられた
商店街の惣菜そうざい屋で、買おうとしていた最後に残った
五十円のコロッケを見知らぬお婆ばあさんに譲ゆずった。
それが運命を変えるとも知らずに……。

ひと特設ページ

17歳で突然事故で父親を亡くし、20歳で突然病気で母を亡くした主人公聖輔。

この世でたった1人となった主人公を親目線で読むと胸が詰まりそうでした。

主人公目線で書かれていますが、どうしても親目線で一気に読んでしまいました。

【ひと】作者小野寺史宜

千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞、08年「ROCKER」でポプラ社小説大賞優秀賞を受賞。著書に『ホケツ!』『家族のシナリオ』(小社刊)『みつばの郵便屋さん』『ひりつく夜の音』『近いはずの人』『リカバリー』『本日も教官なり』『それ自体が奇跡』『夜の側に立つ』などがある。

ひと特設ページ

小野寺さんの小説は温かい。

1人1人を見てくれている。こんな僕/私でも分かってくれている人がいてるんだ。

いつも側にいて寄り添ってくれている。そんな感じです。

なので、あまり本を読まない方でも読みやすい小説だと思います。

 

【ひと】の登場人物

柏木聖輔(かしわぎせいすけ)20歳

父義人(よしと)は聖輔くんが高校2年生の時事故死。

母竹代(たけよ)は父が亡くなった3年後に病死。原因が分からず急死だった。

店主にコロッケをまけてもらった事から田野倉で働くことになる。

田野倉督次(たのくらとくじ)67歳

おかずの田野倉の店主。

聖輔くんにコロッケをまけたことから、アルバイトとして働いてもらうことになる。

田野倉詩子(たのくらうたこ)65歳

督次さんの妻

稲見映樹(いなみえいき)24歳

田野倉で働く店員。店主の友人の息子

芦沢一美(あしざわかずみ)37歳

田野倉で働く店員。シングルマザー。中学生の息子が1人。

船津基志(ふなつもとし)44歳

母のいとこ。聖輔の従伯父。

何かと言い訳を作って聖輔からお金を巻き上げようとする。

井崎青葉(いざきあおば)20歳

聖輔の高校の同級生。首都大学東京健康福祉学部。

 

高瀬涼(たかせりょう)21歳

慶応大学。青葉の元彼。

 

【ひと】の好きなセリフとネタバレ感想

電車に乗った際、ほかの席が空いているのに優先座席に座り、お年寄りが前に立つと、座りたいかどうか本人に確認してから譲る高瀬くんに対して、青葉は違和感を感じる。

そのことを聖輔くんに話すシーン。

「高瀬くん、頭はすごくいいの。悪い人でもない。実際、わたしにはすごく優しい。でも、ちょっとそういうところがある」

そういうところ。無理に言うなら、高位にいる善人ゆえの鈍感さ、だろうか。上空から見ていると地上すれすれで起きてることには気づけない、とでもいうような。

私も高瀬くんみたいな人はちょっと一緒にいて「ん?」となってしまいます。

物語の後半に、聖輔くんが高瀬くんに呼び出される場面があるのですが上から目線の高瀬くんに(ざんねんだなぁ)と心でつぶやいてしまいました。

 

人は、他人にはつい高いものを求めてしまう。自分なら適当な言い訳をつけてやってしまうよくない事も、他人がやると責めてしまう。

ほんの小さな事なのに、自分はいいけど、他人にはイラっとさせられる。

分からなくはないです。

燃えるゴミに牛乳パックを入れてしまったり、電車の座席で1人座れそうか微妙な空席に座ったりします。

ちょっとした事だけど、自分はいいのに他人がすると(え?)ってなってしまう。

 

熱があるにもかかわらずバイトへ出勤する聖輔くんに、すぐに病院へ行くように勧める店主たち。

寒気を覚える。足どりもふらつく。自分を病人と認めた途端、そうなってしまうのだ。

これ、凄く分かります。

熱っぽいかなぁと思っていても体温を見るまでは(まだ、いけるかも)と頑張ってしまいがちですが体温を測って数字を見ると、(あぁ、もうダメ)みたいになってしまいます。

 

お店にお金をせびりに来た基志に10万円を渡す聖輔くん。

「このお金はいいです。実際にあれこれ手伝ってもらってたすかったんで。」そして言う。「でも50万円は母に貸してたんですか?」

「またかよ。貸してたよ。」

「ほんとですか?」

「ほんとだよ」

嘘だと分かっているのに、お金を手切れ金のつもりで渡す聖輔くん。

ここはもっと早くに相談して欲しい。そう思いました。

 

ベースをやっていた聖輔くん。もう弾く事もないからと、バイト先の一美さんの息子準弥君へ譲り、弾き方も教える。

そんなときの一美さんとその息子準弥くんとの会話で準弥くんが母親に「うるせえよ」と言うシーン。

「あんた、ベースじゃなくて勉強を教えてもらってよ」と一美さん。

「うるせえよ」と準弥くん。

中学生と母。わかる。中学生男子にとって、母親はうるさいのだ。

そして、その母親が若くして亡くなることもあるとは考えない。考える必要はないのだ。そうなるのが普通、ではないから。

こうやって甘えられる、わがままを言える母と息子を見て聖輔くんが感じるものを読んでいて辛いものがありました。

 

聖輔くんと青葉が鳥取から東京に出てきた感想を言いあうシーン。

歳をとっても自分に似合う。そういった服を着たいと青葉が言う。

「安くても、自分が気に入ったものなら上がるじゃない。新品に限らない。古着でも上がる。あるに越したことはないけど、お金がないのも悪いことばかりじゃないよね。慎重にえらんでものを買うようになるし」

そうなんですよね。自分が気に入ったものだと、値段は関係ない。

お金があっても、無駄に使うなら慎重に丁寧に選ぶ方がいいという青葉のいう事は分かります。

 

高瀬くんとの感覚が微妙に違ってやっぱり彼氏彼女の間にはなれないと聖輔くんに話す青葉。

「高瀬くんは、普通に渡っていっちゃうの。待ってるその人に向かって。っで、別にわざとではないんだろうけど、すぐわきを通ったりする。そんなのはよくあること。わかってる。急いでるなら、わたしも渡っちゃうと思う。でも高瀬くんは、急いでなくてもそうしちゃうの。それでわたしに言う。車も来ないのに信号を待つようなやつにはなりたくないね。そんな、時間を無駄づかいするようなやつにはさ」

一緒にいて、何か違うっていうのはありますよね。ほんの小さなことだけど、「ん?」っていった感覚。その違和感を青葉は感じ取れているからスゴイと思います。

 

以前父親が働いていた今はなきお店「やましろ」料理人だった父のことを少しでも知ろうと父親の足跡をたどる聖輔くん。運よく当時一緒に働いていた丸初男さんと話すことが出来た。そこで「やましろ」の元オーナー山城時子(やましろときこ)さんを紹介してもらう。帰り際丸さんから右手を差し出され、慣れない握手をする聖輔くん。

丸さんの手は思いのほかやわらかかった。何よりもまず、温かかった。人に体温があることを新鮮に感じた。丸さんの手に力が入ったので、僕も同等に力を入れた。で、離した。

この部分、結構好きな所です。

生きていると体温があって温かい。触れる人に触れるとその温かさが伝わってくる。

もうそれだけで、素晴らしいと思うんです。(あ~生きてるんだな)そう思います。

生きてるって素晴らしいんだ。それだけで、すごいことなんだ。そう思うのです。

 

以前父親が働いていた「やましろ」の元オーナー、山城時子さんと対面するシーン。

「訊きたいことは何でも訊いて。わかることは答えるから」

「ありがとうございます」

でも正面からそう言われると、意外に難しい。僕は何を訊きたいのか。訊きたいことなんてあるのか。父が接した人と会いたかっただけ。会って話したかっただけ。そんな気もする。

わたしが聖輔くんの立場なら、同じ行動をしたと思います。当時の父親の事を知りたいと思うだろうし、けど何を訊けばいいのかわからない。

そして出されたお茶を飲む聖輔くん。

湯呑が高そうだと、お茶はそれだけで美味しく感じられる。

人間の味覚なんてそんなものだ。味覚は視覚に大いに左右される。らしい。

以前テレビでスーパーで売られているスナック菓子を少しアレンジして高級料理店の高級そうな器で提供されたら多くの人がスナック菓子と気付かなかったというのを思い出しました。たぶん私も気づかないと思います。

 

父親が「やましろ」を辞めた理由を山城時子さんから聞く聖輔くん。

聖輔くんの父親らしいなと思いました。そして山城時子さんが言うセリフ。

「同じやめますでも、柏木くんのそれとはだいぶちがってたかな。そのときに痛感したわよ。情だけではどうにもならない。でも情は必要。それってね、あの人が言ってたことなの。」

「人だからこそ」そう思いました。人を思いやる心。

それが出来るのは人しか出来ないんですよね。

日本人だけじゃない、世界共通。

どの国へ行っても笑いあり涙あり。情があるからこそです。人で傷つくこともあるけれど、その傷をうめてくれるのもやっぱり人なんだなぁと思う私です。

空を見上げたとき、世界中繋がっていると思うとなんだか嬉しい。

 

田所の主人、バイトの仲間、大学の友人たち、それぞれが温かくて聖輔くんのまっすぐな心もとても温かくて、息子や娘と重ね、また母親の気持ちになって読んでしまいました。

産んでくれたひと、育ててくれたひとは勿論、優しくしてくれたひと、大切なひと、友人たち、嫌なタイプの人もいるけれど、良いひとたちも結構まわりにいるんですよね。

 

揚げものは子どもになるべく食べさせないという親もいる。わからなくはない。でもたまには許してほしい。たまに食べるカニクリームコロッケは本当においしいのだ。人間はものを食べなければならない。ならば食べることを楽しみたい。おいしいものを食べたい。食べさせたい。

おいしいものを大切な人と美味しく食べる。これって大事なことですよね。

おかずの田野倉でコロッケをあげるシーンや食べるシーンが多くでてきます。

それがまたおいしそうのなんのって。揚げたてのアツアツコロッケがなんと50円。

他にもクリームコロッケやポテトサラダもあります。

読むと、コロッケが食べたくなること間違いなし!!

我が家の夕飯は揚げ物になりました。

 

最後に…

人は空気なんて読めない。よく考えればわかる。そこそこ仲がいい友だちが自分をどうとらえてるかさえわからないのに、空気なんて読めるはずがないのだ。

私もそう思います。

昔は自分は空気が読めるみたいに思っていたけれど、実際は相手がどう思っているかなんてわかるはずがありません。

この歳になってようやくそれに気づいた気がしています。

それが分かる聖輔くん。

そして自分が絶対に譲れないものに気づいた聖輔くん。

フィクションだけれど、ずっと応援していたい。

そして自分もそっと背中を押してもらえるそんな物語でした。

 

前回の記事はこちら👇

読む順番としては、「ひと」「まち」「いえ」がいいかもしれません。

私は「いえ」「まち」「ひと」の順番でしたが、一話完結となっているのでどの順番から読んでも大丈夫です。

 

jibunnnoikikata.hatenablog.com

 

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