【夜明けのはざま】を読んでから、【52ヘルツのクジラたち】を読みたいと思い図書館で借りてきました。
同じ時期映画化され、ますます興味が湧いた本でした。
日々のニュースや物事に対して人の感じ方ってどれだけのズレがあるのだろう?
そう思ってしまいます。
価値観とは?
多くの小説を読む事で、人の気持ちを理解したいと思っています。
52ヘルツのクジラとは
〈52ヘルツのクジラ〉とは、他の仲間たちには聴こえない高い周波数で鳴く世界で1頭だけのクジラのこと。<世界で最も孤独なクジラ>たちにも、その声なき声に耳をすませてくれる相手がきっといる。その声はいつか届く─。切なる想いの先に、胸を揺さぶる希望の光を届けてくれる、今こそ観てほしい愛の物語が完成した。
52ヘルツのクジラたちのあらすじ
傷を抱え、東京から海辺の街の一軒家へと移り住んできた貴瑚は、虐待され、声を出せなくなった「ムシ」と呼ばれる少年と出会う。かつて自分も、家族に虐待され、搾取されてきた彼女は、少年を見過ごすことが出来ず、一緒に暮らし始める。やがて、夢も未来もなかった少年に、たった一つの“願い”が芽生える。その願いをかなえることを決心した貴瑚は、自身の声なきSOSを聴き取り救い出してくれた、今はもう会えない安吾とのかけがえのない日々に想いを馳せ、あの時、聴けなかった声を聴くために、もう一度 立ち上がる──。
町田その子
1980(昭和55)年生れ。福岡県在住。2016(平成28)年「カメルーンの青い魚」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。選考委員の三浦しをん氏、辻村深月氏から絶賛を受ける。翌年、同作を含むデビュー作『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』を刊行。2021(令和3)年『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞。他著書に『ぎょらん』『うつくしが丘の不幸の家』『コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店』『星を掬う』『宙ごはん』などがある。
【52ヘルツのクジラたち】の登場人物
三島貴湖
義理父・母・弟の4人家族。義理父と母親に虐待され、21歳で義理父の介護をすることに。弟は溺愛されている。最悪の状態の時に岡田安吾(アンさん)に救われる。現在は大分県の海辺の町に1人で住んでいる。
岡田安吾(アンさん)
友人の美晴の職場の同僚。
貴湖の心の声を汲み取り、救ってくれる。
牧岡美晴
貴湖の高校時代からの友人。
色々と貴湖の助けになってくれる。
少年
貴湖が移住した町で出会った13歳の少年。
母親からは「ムシ」と呼ばれ虐待を受けている。言葉を発しない。
村中
貴湖が移住してきた家を修理にきた職人男性。
出会いは最悪だったが、貴湖の事を心配している。
新名主税
貴湖が務めていた会社の専務
琴美
少年の母親
品城
琴美の父で少年の祖父。
老人会会長でかつて、村中が通っていた中学校の校長。
さちゑ
村中の祖母。
【52ヘルツのクジラたち】のネタバレ感想
映画は観ていませんが、キナコとアンさんのキャスティングはイメージ通りです。
1:最果ての町に雨
『貴湖はひとの温もりがないと生きていけない弱い生きものだよ。寂しさをしる人間は寂しさを知っているからこそ、失うことに怯えるものだから』貴湖の友人美晴の言葉。
これを読んで、私もそうだよと思いました。
1人でいると人の温もりが恋しい気持ちってあります。そんな時は一緒に話して、笑ったりするのはやっぱり楽しい。寂しい時は側にいてくれるだけでも安心するものだと思います。
色々あった後だと、(そっとしておいてほしい)(1人でいたい)そう思って田舎にきたのもあると思います。
田舎は田舎で噂話や他人へのおせっかいと都会と違った雰囲気があって、自分の領域にまで入ってこられると、これはこれでしんどいです。
どこに住んだって、少なからず人間関係はあります。
自分の置かれた場所で心地よく生活できるために、周りとの程よい距離感を保つのが私の理想だと思っています。
2:夜空に溶ける声
見知らぬ土地での情報はありがたい。
ただ情報といっても誰からの情報なのか。その情報は本当に正しいのか。という事を考えないと後から面倒なことになることが多いので、自分の目で確かめるのが良いと思っています。
育てやすそうな子だけ可愛がってただけの先生。
気に食わない事をする生徒を毛嫌いした先生。
あ~いたいた。こんな先生。
先生も人間だから生徒の好き嫌いはあったでしょうが、あからさまにお気に入りの生徒を可愛がっている姿を見て多くの生徒たちに嫌われていたのを思い出しました。
この章でアンさんが初めて出てきたのかな。
まだ主人公が回想するシーンだけなので、この時点で事実は分からないのですが私は最悪の状態を思い浮かべて(やっぱりな)と思ってしまうのが怖かったです。
怖い。怖いって不安からくるもの。我慢できない怖さ、いつ、どこでどこから襲ってくるか分からないから。目に見えないし、とてつもなく大きい気がするし。
答えが出ないのも怖い。
人によって感じ方が違うように、生きてきた内容によっても怖さは違う。
この章でもう一人の重要人物。ムシと呼ばれる少年。
初めて出会ったこの少年と同じ匂いがする主人公は、相手が少年だったからかもしれませんが、自分の気持ちを素直に伝える事ができるんだなと思いました。
子供にとって逃げ場でもあったキナコの家は唯一安心できる場所なんだなと思います。
そして気になったのは生活費。仕事はしていないし、古いけれど、家もある。
ムムム、お金のやりくりが気になる私…
理由があって喋らない少年。客観的に見ると分かるんだなぁ。なんで自分やその家族だとそれが難しいんだろうって思う。自分だけの問題だけでもないんだけれど。
色々と考える事はあります。
けれど最後まで答えは出ません。そんな時は芥川龍之介を思い浮かべます。
「真実が分からないことなんてこの世にたくさんある」変に足を踏み入れたばかりに自分を見失ってしまう場合もあります。
だから人生はそんなものという生き方も時に大切だと思っています。
3:ドアの向こうの世界
外面はいいけれど、身内ともなれば横暴になるワンマン社長。
人って本当に分からないものだと思います。
せっかく決まっていた就職先をあきらめなければならなかった主人公。
残念でなりませんでした。
介護の日々、声をあげない人に対しての仕打ち。あまりにもひどすぎる。こういうことがあると思うと読んでいて辛いです。
気紛れのように優しく接する母。DVもそうだけれど主人公がこれまで信じて生きてきたのも胸がつまりそうでした。
そこで知り合ったのがアンさん。
「追い詰めてくるものはもう「恩」とは呼べないんだよそれは呪いというんだ」
「呪いになってしまうと後はもう蝕まれていくだけだ、だから抜け出す方法を考えよう」
キナコの母親に向かって対応するアンさん、カッコえー。胸がスカっとしました。
4:再会と懺悔
ひとりにしないで。
この1人はとても繊細。
周りに人がいるってことじゃなくて「心」を1人にしないでってこと。
「常に私をみていて」といった方がいいのかなぁ。
ちゃーんと、自分のことを見ているからね。ってこと。
読みながら娘に言われたことを思い出します。
「ちゃんと聞いてよ」
当時の私はスマホの返信や仕事の事で頭がいっぱいだったりで忙しく子供との時間を大切にしていなかったのではと思います。話を聞いていても、適当に聞いていたのです。
娘はそのことをちゃんと見ていて「ちゃんと聞いて」といったんだと思います。
何かをしながら人のいう事を聞くと、ダメですね。忙しいとついやりがちです。
「外面が良くても中身はダメダメか」
そう思います。権力がある人ほどそうなのかもしれません。分からないのではなく、分かろうとしないんでしょうね。どうでもいいから。
初めはそう思っていなくても、環境に流されたり、忙しさを理由にそうなることも沢山あると思います。
5:償えない過ち
いい人
「いい人」これって、どうなんだろう?
生きていくためには「いい人」でいる必要あるのかなぁ。
自らを犠牲にしてまで…そこまでする必要ある?
もっと方法はあると思う。
とことん議論する。話し合う。自分だけが我慢することは本当に「いい人」なんだろうか。
そう思ってしまいます。
6:届かぬ声の行方
あんたはね、ひとりで抱えすぎなんだよ
アンさんを発見したのはキナコ。
母親であればアンさんの母親の気持ちは胸が張り裂けそうで言葉には表せないと思います。
主人公が自分を責める。
気づけなくて、自分を責める気持ちは誰だってあると思う。
後になって気づく事。これって誰だってそうなんじゃないのかな。
52ヘルツの声をあげていても、気づけない。気づかない。
それでもあきらめずに、色んな方法で言葉を届けてほしい。
色んな手段を使うことで、だれかが必ず気づいてくれる。そう思いました。
7:最果てでの出会い
先生は出来損ないにはとても冷たかったんだ
やっぱりなって思いますね。
こういう人周りにいたから。
綺麗なものだけ見ていたくて、自分の目につくところに汚れがあるのが許せないだけだ。自分の視界からいなくなれば、どうでもいいだけなんだからさ。
自慢とエゴしかなくて周りにはバレていて気付いてないのは自分だけだったりする。
そんな人に育てられるとどうなるかも、考えると恐ろしいです。
そしてその人が与える影響は、その周りの人間にも関わってくるということ。
読んでいて、とてもやるせなかったです。
人というのは最初こそもらう側やけんど、いずれは与える側にならないかん。
いつまでも、貰ってばかりじゃいかんのよ。親になれば尚のこと。
8:52ヘルツのクジラたち
「本」はいつだって人の気持ちに寄り添ってくれます。
作者独特の価値観ではありますが、上手に人の気持ちを言葉で表してくれます。
今までは52ヘルツの声は私には聞こえなかった。
聞こうとしなかったのかも知れません。聞こえているふりをしていたのかもしれません。今は聞こえなくても、聞こうとしている。立ち止って耳をすますようにしています。それでも何もできないかも知れないけれど、少しでも声をあげていてくれるなら、気づきたい。そう思います。
まずは知ってもらうこと。
多くの人に沢山貰ってきた私。
作者のように小説は書けませんが、映画や本をたくさん読んで感想を書いて紹介する事は出来ます。
今自分に出来る事を精一杯しよう。
jibunnnoikikata.hatenablog.com